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「接客型ライブコマース」という日本固有のビジネスモデル:丁寧な接客と対話が生まれる新しい販売体験

はじめに:中国式とは異なる日本市場の進化

ライブコマース市場は世界的な拡大を続けています。中国では2025年に約6兆円規模に達したとされ、巨大な視聴者数と短期間での爆発的な売上が成功の象徴となっています。一方、日本のライブコマース市場は2023年時点で約3,000億円と、中国と比較するとまだ小規模です。

しかし、日本市場は決して中国モデルの後追いではありません。むしろ、「接客型ライブコマース」と呼ぶべき独自の進化を遂げつつあります。これは日本の消費文化や購買心理を背景に自然発生的に形成されたモデルであり、今後のグローバル市場においても注目すべき方向性といえるでしょう。

本稿では、「接客型ライブコマース」とは何か、中国型モデルとの違い、日本市場で成功するための戦略を具体的な企業事例をもとに解説します。



「接客型ライブコマース」とは何か

視聴者数ではなく“関係性の質”を重視するモデル

中国型ライブコマースが「大規模オーディエンスへの一斉販売」を志向するのに対し、日本型は「限られた視聴者との信頼関係の構築」を重視します。

主な特徴は次の通りです。


  • 視聴者規模よりも関係性の深さを重視

  • ブランドの世界観や背景ストーリーを丁寧に伝える

  • 限定配信や先行販売によってコミュニティ意識を醸成する


つまり、短期的な売上最大化ではなく、長期的なファン育成を目的とした販売手法といえます。



中国型と日本型の構造的な違い

要素

中国型(爆発型)

日本型(接客型)

視聴者数

数十万〜数百万人

数千〜数万人

主目的

短期的な売上最大化

長期的な顧客育成

配信者

著名KOL・トップインフルエンサー

店舗スタッフ・専門職・生活者

コミュニケーション

一方向

双方向

訴求軸

機能・価格

信頼・ブランド価値

時間軸

短期集中

継続型

この違いは単なる戦略ではなく、日本の消費者が重視する「安心」「信頼」「対話」といった価値観に根差しています。



日本市場が接客型へ進化した理由

「誰から買うか」を重視する購買心理

NTTコム リサーチの調査によると、ライブコマース視聴経験者のうち54.8%が実際に購入に至っています。この結果は、日本の消費者が価格や機能だけでなく、「信頼できる相手から購入したい」と考えていることを示しています。

店舗での接客を重視する文化が、そのままオンラインに移行しているともいえるでしょう。


テレビ通販との決定的な違い

従来のテレビ通販は一方向的に商品情報を伝える形式でした。これに対し、ライブコマースでは視聴者がリアルタイムで質問できます。

例えば、「敏感肌でも使えますか?」という問いに対し、「私も敏感肌ですが問題なく使えています」

と即座に回答できることで、購入時の不安がその場で解消されます。

ここで生まれているのは単なる販売ではなく、「相談」や「カウンセリング」に近い体験です。


参加型購買を好むスマートフォン世代

日本の消費者は情報リテラシーが高く、受動的な購買よりも「納得して買う」プロセスを重視する傾向があります。

接客型ライブコマースは、視聴者を購買プロセスの参加者へと変える設計になっている点が大きな特徴です。



企業事例に見る接客型ライブコマース

FANCL「FANCL LIVE SHOPPING」

美容部員によるカウンセリング型配信

化粧品ブランドFANCLは、ライブ配信アプリ「HandsUP」を活用し、美容部員が出演するライブ配信を展開しています。

スキンケアの使い方を実演しながら視聴者の質問に回答する形式で、実店舗に近い接客体験をオンライン上で再現しています。

3年間で145回のライブを実施し、延べ視聴者数は約52万人に到達しました。

成功の本質は限定セットなどの販売施策だけではありません。美容部員との対話を通じて「この人なら信頼できる」という関係性が構築された点にあります。


ニトリ「ニトリLIVE」

店舗接客の再現による購買体験の最適化

ニトリは週4〜5回のペースでライブ配信を行い、店舗さながらの商品紹介を実現しています。

スタッフ2名による掛け合いはテレビ番組のようなテンポを生み、視聴者の理解を促進します。

さらに、配信画面からワンクリックで商品ページに遷移できる設計により、購買導線をスムーズにしています。

配信アーカイブをECサイトと連携させることで、リアルタイム視聴できなかった顧客にもリーチできる点も特徴です。


MIX:生活者視点による共感型販売

ライブコマース単体で月商1,000万円を達成したアパレル企業MIXの事例は、接客型モデルの本質を示しています。

所属ライバーの多くが主婦層であり、「子どもの送迎でも着られる」「家事をしても動きやすい」といった生活者視点の説明が、視聴者の具体的な購買イメージを喚起しています。

有名インフルエンサーではなく、生活に近い立場の配信者を活用したことが成功要因といえるでしょう。



接客型ライブコマースを成功させる戦略

1. 配信の定期化

毎週同じ曜日・時間に配信することで視聴習慣が形成されます。


2. 配信者選定は「親近性」と「専門性」

フォロワー数よりも、商品理解と視聴者との距離感を重視すべきです。


3. コメントへの即時対応

リアルタイム回答は不安を解消し、購入を後押しします。


4. データに基づく改善

CVR、視聴時間、流入経路などを分析し、配信設計を継続的に最適化することが重要です。



日本市場の課題と展望

NTTコム リサーチによると、2023年時点でライブコマースの視聴経験率は3.9%にとどまっています。

主な課題は以下です。


  • 市場認知の不足

  • プロ配信者の育成遅れ

  • 配信環境など技術面の整備


一方、2025年6月のTikTok Shop日本展開は大きな転換点となりました。ショート動画と購買機能の融合により、若年層へのリーチ拡大が期待されています。

また、マイクロインフルエンサーの台頭により、大型インフルエンサー依存からの脱却も進んでいます。



結論

接客型ライブコマースは単なる販売手法ではありません。日本の消費文化から自然に生まれた、新しい小売の形です。

爆発的な売上ではなく、信頼関係に基づく長期的な顧客価値の創出を目指す企業にとって、有効なチャネルとなるでしょう。

FANCLの大規模視聴実績、MIXの月商1,000万円、ニトリの継続的な配信は、このモデルの実現可能性を示しています。

2026年以降、企業の競争力は「視聴者との関係性をどれだけ深く構築できるか」によって左右される時代に入ります。接客型ライブコマースは、その中核を担う存在として、今後さらに重要性を高めていくと考えられます。



参考文献

  • NTTコム リサーチ『ライブコマースに関する調査』(2023年)

  • 経済産業省『電子商取引に関する市場調査(令和5年)』

  • FANCL公式プレスリリース「ライブコマース施策『FANCL LIVE SHOPPING』の取り組み」

  • HandsUP(17LIVE株式会社)導入事例:FANCLライブ配信事例

  • 日経クロストレンド「ニトリのライブコマース戦略」

  • 株式会社MIX プレスリリース「アパレルライブコマースで月商1,000万円突破!」(2025年9月24日)

  • PR TIMES 各社ライブコマース関連リリース

  • ジェトロ(日本貿易振興機構)「TikTok Shopの日本展開に関する動向」(2025年)

  • McKinsey & Company『China’s Live-Commerce Boom』(ライブコマースの国際比較資料)

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