規制の危機さが競争優位を生む:2026年薬機法改正が海外医薬品メーカーにチャンスをもたらす
- あゆみ 佐藤
- 1月15日
- 読了時間: 5分
はじめに:「規制が厳しい=参入困難」という通念を超えて
海外の医薬品メーカーが日本市場参入を検討する際、多くの場合「日本の医薬品規制は世界でも特に厳しい」という認識を持ちます。この認識自体は、事実として大きく外れていません。
しかし重要なのは、その規制の厳格さこそが、信頼・品質・長期的競争優位の源泉になっているという点です。2026年5月1日に施行予定の薬機法改正は、単なる「規制強化」ではなく、適切に対応できる事業者にとっては市場参入障壁が競争優位へ転換される転換点となります。
世界の医薬品販売規制の潮流と日本の位置づけ
グローバルでは、医薬品販売をめぐる制度は緩和方向に進む国も見られます。米国では遠隔医療を通じた処方が拡大し、欧州でも一般用医薬品(OTC)のオンライン販売を段階的に認める国が増えています。
ただし欧州の場合、EU全体で一律にオンライン販売を推進しているわけではなく、ドイツ、フランスなど加盟国ごとに規制内容や販売条件は大きく異なります。
日本の2026年薬機法改正は、こうした「一方向の規制緩和」とは異なり、規制緩和と規制強化を同時に進める「ハイブリッド型改正」という点に特徴があります。
改正の核心①
オーバードーズ対策の「努力義務」から「法的義務」への昇格
2026年5月1日施行予定の改正で最も重要なポイントは、市販薬のオーバードーズ対策が 努力義務から法的義務へ格上げ される点です。
これまで、咳止め薬や総合感冒薬などの濫用防止は、販売者の自主的取り組みに委ねられてきました。しかしSNS等での誤用情報拡散を背景に、若年層を中心とした過剰摂取が社会問題化したことを受け、制度が大きく転換されます。
新たに対象となる主な成分(例)
デキストロメトルファン
ジフェンヒドラミン(※最終的な対象成分リストは、厚労省からの確定通知を待つ必要があります)
事業者に課される主な義務(整理後)
購入者の 年齢・氏名の確認
他店舗を含む 同一商品の重複購入状況の確認
購入数量が多い場合の 購入理由の聴取
販売可否判断の 記録・保存
18歳未満への販売規制
大容量品・複数個販売は禁止
小容量(1箱)販売は可能だが、薬剤師等による年齢確認および対面またはテレビ電話での販売が必要
規制対応は「コスト」ではなく「競争資産」になる
これらの義務を満たすため、販売事業者には以下のような体制構築が求められます。
必要となる主なシステム群(修正版)
① 購入者確認・記録システム
年齢・氏名の確認
(具体的な本人確認手段は、今後の厚労省通知で示される予定)
販売判断に関するログ保存
② 購入行動監視システム
同一購入者による反復購入の追跡
異常購入パターンの検知
薬剤師・登録販売者へのアラート通知
③ 履歴管理・監査対応システム
情報提供・確認プロセスの記録
行政監査対応用ログの保管
※ 他チャネル(例:決済事業者)との購入履歴連携については、個人情報保護法等の枠内で実現可能性を慎重に検討する必要があります。
これらの体制構築には相当な技術投資と運用コストが必要と見込まれます。ただし投資規模は、企業規模や対象商品数、運用範囲によって大きく異なります。
規制対応が生む「顧客データ戦略」という副産物
購入者確認・記録システムの本来目的は「濫用防止」ですが、その結果として、事業者は以下のような高品質な顧客行動データを合法的に蓄積することになります。
購入頻度・購入時期
購入理由(体調・症状)
年齢層別・季節別の需要変動
地域ごとの購買傾向
これらは単なる販売履歴ではなく、顧客ライフサイクルを理解する基盤データです。結果として、事業モデルは「販売数量最大化」から顧客生涯価値(LTV)最大化型モデルへ移行せざるを得なくなります。
改正の核心②
要指導医薬品のオンライン販売は「一部のみ」解禁
改正により、要指導医薬品のうち一部については薬剤師によるオンライン服薬指導実施後のインターネット販売が可能になります。
ただし重要な点として、「特定要指導医薬品」に指定された品目(劇薬を含む)については、従来どおり対面販売が義務付けられます。
つまり、
すべての要指導医薬品がオンライン化されるわけではない
オンライン販売にアクセスできるのは、適切な服薬指導体制・記録体制を構築できた事業者のみ
という構造になります。
ビジネスモデルの転換:「販売」から「ケア」へ
2026年以降、日本の医薬品販売は単なる商品流通モデルでは成立しにくくなります。
求められるのは、
初回購入時の丁寧なヒアリング
季節・年齢変化に応じた継続提案
顧客健康プロファイルに基づく適正使用支援
といった 「ケア型モデル」 です。
このモデルは、結果としてグローバルECプラットフォームが採用してきたLTV最大化戦略と本質的に一致します。
日本で規制対応した企業が、なぜグローバルで強くなるのか
日本市場で薬機法改正に対応した企業は、以下の資産を自然に獲得します。
高度な顧客データ管理能力
厳格な個人情報・規制対応体制
LTV重視の経営ノウハウ
これらは、インド・東南アジア・欧州など今後規制強化が進む市場でそのまま競争力として転用可能です。
海外メーカーが今から準備すべきこと
第1段階:制度理解
最終成分リスト・要指導医薬品区分の確認
販売パートナーとの役割分担整理
第2段階:体制構築
購入者確認・記録システム
オンライン服薬指導体制
社内コンプライアンス組織整備
第3段階:試験運用
限定商品・地域でのパイロット
運用課題の洗い出し
第4段階:本格展開
全チャネル展開
継続的な監査・改善
データ活用の高度化
結論:規制との共進化が競争優位を生む
2026年薬機法改正は、短期的には事業者の負担増に見えるかもしれません。
しかし、規制を「顧客信頼の基盤」として戦略的に活用できる企業は、日本市場での成功を、グローバル競争力へと転換できます。
日本の厳格な規制は「壁」ではなく、越えた企業だけが得られる信頼資産です。海外メーカーにとって、今まさに準備を始めるべき局面に入っています。
























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