日本EC最新事例2025:ZOZO
- あゆみ 佐藤
- 2 日前
- 読了時間: 5分
ZOZOTOWN:「ZOZOSUIT」による体型計測でEC上の最適サイズ提案を実現した革新的DX戦略
1. ファッションECが抱える構造課題
1.1 アパレルEC市場における恒常的な高返品率
ファッションECの最大の構造問題は、返品率の高さです。アパレルEC全体では平均30%前後と言われ、主要因は以下です:
実物とのギャップ(サイズ・丈・素材感)
試着不可による“購入後のミスマッチ”
複数サイズ注文 → 自宅試着 → 不要分を返品する行動の定着
返品は、顧客のストレス → 企業の物流・検品コスト増 → 環境負荷増大という悪循環を生み、業界共通の課題となっていました。
1.2 従来のサイズ選択手法の限界
従来のオンライン購入では以下が前提でした:
メーカー提供のサイズチャートを見ながら「なんとなく選ぶ」
試着ができないため、実際に届いてからフィット感を確認
合わなければ返品、交換
この“推測ベースのサイズ選択”を根本から変えるため、ZOZOは「体型そのものをデジタル化し、データに基づく最適サイズ提案」という革新的アプローチを採用しました。
2. ZOZOSUIT:体型計測テクノロジーの基盤構築
2.1 初代ZOZOSUIT(2016年)と100万人への無料配布
ZOZOは2016年、初代「ZOZOSUIT」を開発し、100万人以上へ無料配布という大規模施策を実施しました。
この戦略的意義は極めて大きく、
日本人100万人分の体型データという巨大サンプルが確保できた
計測精度の検証とAIモデルの学習が加速
「サイズ問題を本気で解決する」ブランド姿勢を明確化
という成果につながりました。
初代ZOZOSUITは、市松模様を認識させることで体型を3D計測する特殊スーツで、スマホ撮影のみで体型データを取得できる仕組みでした。
2.2 ZOZOSUIT 2(2020年)の精度進化
2020年10月に登場した「ZOZOSUIT 2」は、精度・利便性が大きく向上。
計測精度:平均誤差3.7mm以下
計測箇所:最大139ポイント
計測時間:約1分に短縮
幅広い体型への対応力も増し、実用性が大幅に向上しました。
2.3 100万人超のビッグデータが生む価値
蓄積されたデータは、ZOZOとアパレルブランド双方に巨大な価値をもたらしています。
ブランド側:サイズ設計・パターン作成の最適化
顧客側:**「自分と似た体型の人の満足データ」**に基づく最適サイズ選択が可能に
データに基づく“統計的サイズ提案”は、返品率低減と購入満足度向上の両方に寄与しました。
3. ZOZOMAT:靴カテゴリーの返品率を改善する足型計測
3.1 ZOZOMATの仕組み
2018年、ZOZOは**足型計測デバイス「ZOZOMAT」**をリリース。
足型をマット上で撮影し、AIが複数ポイントを自動解析
計測精度は数mm単位
自宅で無料・簡単に計測可能
3.2 靴カテゴリーの返品率を2ポイント改善
ZOZOMAT導入後、
靴カテゴリーの返品率:約2ポイント低下
平均30%の返品率を前提にすると、相対で約6〜7%の返品削減に相当し、物流・検品コストにも大きな効果をもたらしました。
3.3 環境負荷の低減
返品削減はそのまま環境負荷の軽減につながり、
物流量の削減
廃棄ロスの抑制
といった効果が確認されています。
4. ZOZOMETRY:BtoB向け計測サービスへの展開
4.1 2024年に正式ローンチ:BtoB採寸DXの開始
2024年10月、ZOZOは計測技術を企業向けに提供する**「ZOZOMETRY(ゾゾメトリー)」**を正式ローンチ。
提供される計測方式は2種類:
① アプリのみ計測:誤差10mm以下② ZOZOSUIT+アプリ計測:誤差3.7mm以下
最大139箇所を計測でき、用途に応じて精度を選択可能。
4.2 オーダーウエットスーツ業界への導入
初期導入は「オーダーウエットスーツ」業界。
従来:
熟練者が30〜40箇所を手測定
標準化が難しく、属人化していた
地方では採寸が難しい
ZOZOMETRY導入後:
スマホとZOZOSUITで高精度採寸が可能
地域を問わないEC販売が可能に
測定担当者の時間が大幅削減
すでに4社で600件以上の計測が実施されています。
5. EC上での最適サイズ提案アルゴリズム
5.1 体型データ × 過去購入履歴 × 他ユーザー統計
ZOZOのレコメンデーションモデルは下記を統合分析:
顧客の体型データ
購入履歴(普段買うサイズ)
類似体型ユーザーの満足データ
これにより**“最も満足度の高いサイズ”**を高精度で提案します。
5.2 物理計測がなくても高精度化
現在では、初回計測と購入履歴があれば、再度ZOZOSUITを利用しなくても精度の高い提案が可能になっています。
6. 数値で見る成果
6.1 返品率の改善(例:靴カテゴリ)
30% → 28%(2ポイント減)
年間規模で見ると数十万件レベルの返品削減効果
6.2 顧客体験の向上
購入サイズの迷いが大幅減
データに基づく自信ある購入判断
パーソナライズメールの開封率が向上
6.3 ブランド側のメリット
需要予測精度の向上
過剰在庫・欠品の抑制
返品理由の構造分析
7. テクノロジーを事業化するZOZOの戦略
7.1 「ZOZOMETRY」で計測技術を外販
ZOZOはEC企業から“計測テクノロジー企業”へと進化しつつあります。
計測技術の外販
異業種への横展開
100万人データを基盤とした高度な計測サービス
7.2 今後の想定領域
オーダースーツ
オーダーシャツ
フィットネスウェア
医療(リハビリ靴など)
アバター生成・ゲーム分野
ZOZOMETRYは「採寸が必要でEC化が難しい」領域のDXを後押しします。
8. 業界への示唆
課題を“仕組み”で解決する発想返品削減ではなく「返品が起きない仕組み」を構築。
ビッグデータの民主化自社EC最適化のみならず、他社へもサービスとして提供。
環境配慮 × ビジネス成果の両立サステナブルで収益性も高いモデル。
総括
ZOZOは「ZOZOSUIT」「ZOZOMAT」「ZOZOMETRY」によって、ファッションECの構造課題である**“オンライン試着の不在”**に対し、データとテクノロジーで真正面から挑みました。
100万人超の体型データの構築
サイズ提案精度の飛躍的向上
靴カテゴリー返品率の改善
採寸が必須の商品(ウェットスーツ等)のEC化を実現
テクノロジー外販による新事業創出
これは、単なるECの成功事例を超え、業界構造そのものを変革しうるDX戦略の模範です。




























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