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日本EC最新事例2025:ZOZO

ZOZOTOWN:「ZOZOSUIT」による体型計測でEC上の最適サイズ提案を実現した革新的DX戦略


1. ファッションECが抱える構造課題

1.1 アパレルEC市場における恒常的な高返品率

ファッションECの最大の構造問題は、返品率の高さです。アパレルEC全体では平均30%前後と言われ、主要因は以下です:

  • 実物とのギャップ(サイズ・丈・素材感)

  • 試着不可による“購入後のミスマッチ”

  • 複数サイズ注文 → 自宅試着 → 不要分を返品する行動の定着

返品は、顧客のストレス → 企業の物流・検品コスト増 → 環境負荷増大という悪循環を生み、業界共通の課題となっていました。


1.2 従来のサイズ選択手法の限界

従来のオンライン購入では以下が前提でした:

  • メーカー提供のサイズチャートを見ながら「なんとなく選ぶ」

  • 試着ができないため、実際に届いてからフィット感を確認

  • 合わなければ返品、交換

この“推測ベースのサイズ選択”を根本から変えるため、ZOZOは「体型そのものをデジタル化し、データに基づく最適サイズ提案」という革新的アプローチを採用しました。



2. ZOZOSUIT:体型計測テクノロジーの基盤構築

2.1 初代ZOZOSUIT(2016年)と100万人への無料配布

ZOZOは2016年、初代「ZOZOSUIT」を開発し、100万人以上へ無料配布という大規模施策を実施しました。

この戦略的意義は極めて大きく、

  • 日本人100万人分の体型データという巨大サンプルが確保できた

  • 計測精度の検証とAIモデルの学習が加速

  • 「サイズ問題を本気で解決する」ブランド姿勢を明確化

という成果につながりました。

初代ZOZOSUITは、市松模様を認識させることで体型を3D計測する特殊スーツで、スマホ撮影のみで体型データを取得できる仕組みでした。


2.2 ZOZOSUIT 2(2020年)の精度進化

2020年10月に登場した「ZOZOSUIT 2」は、精度・利便性が大きく向上。

  • 計測精度:平均誤差3.7mm以下

  • 計測箇所:最大139ポイント

  • 計測時間:約1分に短縮

幅広い体型への対応力も増し、実用性が大幅に向上しました。


2.3 100万人超のビッグデータが生む価値

蓄積されたデータは、ZOZOとアパレルブランド双方に巨大な価値をもたらしています。

  • ブランド側:サイズ設計・パターン作成の最適化

  • 顧客側:**「自分と似た体型の人の満足データ」**に基づく最適サイズ選択が可能に

データに基づく“統計的サイズ提案”は、返品率低減と購入満足度向上の両方に寄与しました。



3. ZOZOMAT:靴カテゴリーの返品率を改善する足型計測

3.1 ZOZOMATの仕組み

2018年、ZOZOは**足型計測デバイス「ZOZOMAT」**をリリース。

  • 足型をマット上で撮影し、AIが複数ポイントを自動解析

  • 計測精度は数mm単位

  • 自宅で無料・簡単に計測可能


3.2 靴カテゴリーの返品率を2ポイント改善

ZOZOMAT導入後、

  • 靴カテゴリーの返品率:約2ポイント低下

平均30%の返品率を前提にすると、相対で約6〜7%の返品削減に相当し、物流・検品コストにも大きな効果をもたらしました。


3.3 環境負荷の低減

返品削減はそのまま環境負荷の軽減につながり、

  • 物流量の削減

  • 廃棄ロスの抑制

といった効果が確認されています。



4. ZOZOMETRY:BtoB向け計測サービスへの展開

4.1 2024年に正式ローンチ:BtoB採寸DXの開始

2024年10月、ZOZOは計測技術を企業向けに提供する**「ZOZOMETRY(ゾゾメトリー)」**を正式ローンチ。

提供される計測方式は2種類:

アプリのみ計測:誤差10mm以下ZOZOSUIT+アプリ計測:誤差3.7mm以下

最大139箇所を計測でき、用途に応じて精度を選択可能。


4.2 オーダーウエットスーツ業界への導入

初期導入は「オーダーウエットスーツ」業界。

従来:

  • 熟練者が30〜40箇所を手測定

  • 標準化が難しく、属人化していた

  • 地方では採寸が難しい

ZOZOMETRY導入後:

  • スマホとZOZOSUITで高精度採寸が可能

  • 地域を問わないEC販売が可能に

  • 測定担当者の時間が大幅削減

すでに4社で600件以上の計測が実施されています。



5. EC上での最適サイズ提案アルゴリズム

5.1 体型データ × 過去購入履歴 × 他ユーザー統計

ZOZOのレコメンデーションモデルは下記を統合分析:

  • 顧客の体型データ

  • 購入履歴(普段買うサイズ)

  • 類似体型ユーザーの満足データ

これにより**“最も満足度の高いサイズ”**を高精度で提案します。


5.2 物理計測がなくても高精度化

現在では、初回計測と購入履歴があれば、再度ZOZOSUITを利用しなくても精度の高い提案が可能になっています。



6. 数値で見る成果

6.1 返品率の改善(例:靴カテゴリ)

  • 30% → 28%(2ポイント減)

  • 年間規模で見ると数十万件レベルの返品削減効果


6.2 顧客体験の向上

  • 購入サイズの迷いが大幅減

  • データに基づく自信ある購入判断

  • パーソナライズメールの開封率が向上


6.3 ブランド側のメリット

  • 需要予測精度の向上

  • 過剰在庫・欠品の抑制

  • 返品理由の構造分析



7. テクノロジーを事業化するZOZOの戦略

7.1 「ZOZOMETRY」で計測技術を外販

ZOZOはEC企業から“計測テクノロジー企業”へと進化しつつあります。

  • 計測技術の外販

  • 異業種への横展開

  • 100万人データを基盤とした高度な計測サービス


7.2 今後の想定領域

  • オーダースーツ

  • オーダーシャツ

  • フィットネスウェア

  • 医療(リハビリ靴など)

  • アバター生成・ゲーム分野

ZOZOMETRYは「採寸が必要でEC化が難しい」領域のDXを後押しします。



8. 業界への示唆

  1. 課題を“仕組み”で解決する発想返品削減ではなく「返品が起きない仕組み」を構築。

  2. ビッグデータの民主化自社EC最適化のみならず、他社へもサービスとして提供。

  3. 環境配慮 × ビジネス成果の両立サステナブルで収益性も高いモデル。



総括

ZOZOは「ZOZOSUIT」「ZOZOMAT」「ZOZOMETRY」によって、ファッションECの構造課題である**“オンライン試着の不在”**に対し、データとテクノロジーで真正面から挑みました。

  • 100万人超の体型データの構築

  • サイズ提案精度の飛躍的向上

  • 靴カテゴリー返品率の改善

  • 採寸が必須の商品(ウェットスーツ等)のEC化を実現

  • テクノロジー外販による新事業創出

これは、単なるECの成功事例を超え、業界構造そのものを変革しうるDX戦略の模範です。


  1. https://exp-d.com/interview/18774/

  2. https://corp.zozo.com/news/20241015-zozometry/

  3. https://note.com/webtasu_microbiz/n/n79e74262c4cb

  4. https://gefab.jp/column/lean_canvas/1353/

  5. https://corp.zozo.com/ir-info/files/pdf/46b5d9344ecca501305088093c0e3346efbe54f8.pdf

  6. https://lanway.jp/blog/knowledge/1341/

  7. https://www.cloudec.jp/ecnews/ec_trend/

  8. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000396.000096287.html

  9. https://eczine.jp/news/detail/15603

  10. https://arukunpo.com/reha_zozomat_used/

  11. https://marketing-analytics.site/zozotown/

  12. https://ecnomikata.com/ecnews/ecmall/44825/

  13. https://corp.zozo.com/ir-info/files/pdf/past_154.pdf

  14. https://crirc.jp/jigyonaiyou/research/jishu/pdf/project/2020-2.pdf

  15. https://ascii.jp/archive/top/202308/

  16. https://www.dentsu.co.jp/knowledge/ad_nenpyo.html

  17. https://ecnomikata.com/search/result/?G%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%83%BC500%E4%BA%BA+%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%83%88%E8%AA%BF%E6%9F%BB+Vol.4%E3%80%80%E7%B5%90%E5%A9%9A%E5%BC%8F%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E2%80%9C%E4%BA%BA%E6%B0%97%E6%BC%94%E5%87%BA%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%EF%BC%86%E6%B5%81%E8%A1%8C%E3%81%AE%E5%85%86%E3%81%97%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8B%E6%BC%94%E5%87%BA%E2%80%9D+&s=T

  18. https://www.softbank.jp/corp/set/data/sustainability/documents/reports/pdf/sbkk_non_financial_report_2025.pdf

  19. https://hail2u.net/statuses/

  20. https://www.gsm.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/SH_2018.pdf

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