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日本EC最新事例2025:豊洲市場

株式会社豊洲漁商産直市場:BtoB-ECによる業務効率化と客単価1.2倍・売上1.5倍の実現

株式会社豊洲漁商産直市場(以下「トヨイチ」)は、全国の漁港から仕入れた鮮魚を飲食店などに卸売する水産物流通企業である。

2024年以降、BtoB-EC「Bカート」とクラウド業務アプリ「kintone」を導入し、受注業務のデジタル化(DX)を推進した結果、客単価1.2倍、売上1.5倍という顕著な成果を実現した。


1. 水産物流通業の特殊性とトヨイチの課題

1.1 事業の特徴

トヨイチは豊洲市場を拠点とし、全国の漁港から鮮魚を仕入れ、飲食店・レストラン・居酒屋などへ卸販売を行っている。水産業には次のような業界特有の構造が存在する:

  • 生鮮品ゆえの不確定性:品質・量が日々変動

  • 鮮度優先の短時間処理:受注〜配送までの即時性が不可欠

  • 時間帯の制約:豊洲市場の営業スケジュールに合わせ、受注は15:00〜0:30の限定時間

  • 細かい要望が多い商習慣:「この部位だけ」「サイズはこのくらいで」などオーダーが複雑

これらは、電話・FAX中心の運用と非常に相性が悪い。


1.2 従来の電話・FAX受注の限界

改善前の受注フローでは、次のような問題が顕在化していた。

  • スタッフの長時間拘束:15:00〜0:30まで、最大で9時間以上の電話受付

  • 回線数の限界による機会損失:2〜4回線では、ピーク時に注文が受けられない

  • 手入力による漏れ・ミス:情報の聞き取り間違い・転記ミスなどが常に発生

  • 追加注文が困難:電話が繋がらず顧客が注文を諦める

  • 営業時間外の対応不可:飲食店側のニーズと受注可能時間が合致しない

トヨイチはこれらを「事業成長を阻害する要因」と捉え、DX化を加速させた。



2. BtoB-ECの導入:kintoneとBカートによる業務基盤の再構築

2.1 kintoneによる基幹業務のデジタル化

kintoneを採用した理由は次のとおりである。

  • 水産業特有の業務ルールにフィットする柔軟なカスタマイズ性

  • クラウド基盤による低コスト・スケーラブルな運用

  • ノーコードで迅速な業務改善が可能

主な機能は以下:

  • 顧客情報の一元管理

  • 注文履歴を活用した提案型受注

  • 受注〜出荷までのワークフロー可視化

  • 部門間の情報共有の自動化


2.2 Bカートによる24時間発注可能なEC環境の構築

トヨイチは、飲食店が使いやすいUIを重視しBカートを採用した。

顧客向けの主なメリット

  • スマホで簡単に検索・発注

  • 24時間注文可能

  • 過去注文の再購入が容易

企業側のメリット

  • 代理ログイン対応で従来の電話注文も柔軟に受け付け可能

  • kintoneと自動連携

  • 受注〜出荷指示までを自動化


2.3 システム統合による二重入力の解消

Bカートとkintoneのシームレスな連携により:

  • 二重入力ゼロ

  • ヒューマンエラーの劇的減少

  • 部門間の情報共有が正確かつ迅速に

業務全体の効率が大きく改善した。



3. 受注業務効率化:電話依存からハイブリッド型へ

3.1 電話を完全撤廃しない「ハイブリッド型」を採用

顧客層には、電話での細やかなコミュニケーションを求める飲食店も多いため、トヨイチは ECを主軸としつつ電話・メール・LINEも併用する方式 を選択した。

これにより、

  • ニュアンスが必要な注文は電話で対応

  • 手間のかからない発注はECに誘導という柔軟な運用が可能になった。


3.2 スタッフ負荷の大幅削減

導入後の変化は大きい。

導入前

  • 長時間の電話対応

  • 手作業での受注入力

導入後

  • ECでの自動受注処理

  • 電話対応は大幅に減少

  • 業務負荷が低下し、初の育休取得者も出た


3.3 回線パンクの解消

従来の回線数2〜4本ではピーク時に限界があったが、ECでは 同時に何百件でも受注可能。機会損失がほぼ解消された。



4. 顧客体験の向上と追加注文増加

4.1 スマホ発注の普及により追加注文が自然に増加

従来は電話の手間があり、「最低限必要な分だけ」注文する顧客が多かった。

EC導入後は:

  • 営業中に「追加で必要」と気づいた瞬間に発注

  • 帰宅途中にもスマホで発注

  • 再注文(リピート)が簡単

これにより 客単価1.2倍 を達成。


4.2 受注時間の拡張による新規顧客の獲得

ECにより24時間受注が可能となり、

  • 営業後の深夜発注

  • 仕込み直前の緊急発注

  • 営業中の追加発注

など、従来対応できなかった受注を獲得できるようになった。



5. 売上1.5倍の実現要因

売上増加の構造は以下の組み合わせである:

要素

内容

売上寄与

客単価増(1.2倍)

追加注文・リピートの増加

約+20%

新規顧客増

時間拡張・EC操作性による獲得

約+15%

リピート率向上

再注文のしやすさ

約+15%

合計すると 売上1.5倍 を実現した。



6. 社内オペレーションの可視化と改善

6.1 ボトルネックの可視化

デジタル化により、次が明確になった:

  • ピーク時間帯の注文集中データ

  • 人員配置の最適化

  • 回線依存の限界

定量的な判断が可能となった。


6.2 ヒューマンエラーの大幅減

手書きメモ・口頭伝達が廃止され、

  • デジタル記録の正確性

  • kintoneによる自動通知

  • 出荷指示の統一化

によりエラーが大幅に減少。


6.3 働き方改革への貢献

  • 勤務時間の削減

  • 育休取得が可能に

  • 手作業から顧客対応中心の業務へシフト

従業員満足度にも寄与した。



7. 水産業界への示唆

トヨイチのDXは水産業界での先進事例となった。

  • 業界特有の複雑な商習慣をECで整理

  • 労働環境の改善

  • 成長戦略としてのDXの有効性

経営陣も「業界全体でDXを広めたい」と発信しており、波及効果が期待される。



8. BtoB-EC導入から得られる学び

8.1 ハイブリッド対応の有効性

顧客リテラシーの幅に合わせ、完全移行ではなく併用することで、スムーズな定着を実現。


8.2 顧客体験重視のUI設計

1クリックで商品に辿りつく検索性など、BtoC並みの操作性がBtoBでも必須であることを示した。


8.3 初期フォローの重要性

導入初期の顧客訪問、フィードバック収集、迅速な改善対応が、成功の鍵となった。



■総括

株式会社豊洲漁商産直市場は、業界特性の強い水産物流通業においてBtoB-ECを導入し、受注効率化 × 顧客体験向上 × 働き方改革 × 売上成長 を同時に実現した先進的な事例である。

特に「電話・メールを残しつつECを主軸にするハイブリッド型」は、多くのBtoB企業にとって非常に有効なアプローチであり、他社にも大きな示唆を与える。



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