日本EC最新事例2025:西松屋
- あゆみ 佐藤
- 2 日前
- 読了時間: 5分
1. 西松屋チェーンの事業背景と初期課題
西松屋チェーンは1985年の創業以来、ベビー・子ども用品を手頃な価格で提供する専門店として全国展開を続けてきた。顧客の大半は、妊娠期から小学生までの長期間にわたり繰り返し購入を行う「継続利用型の顧客層」である。
1.1 実店舗中心ビジネスモデルの限界
2000年代後半からECモール(au PAYマーケット等)にも出店していたものの、以下の課題が浮上していた。
販促費・モール手数料が利益を圧迫
顧客データを取得できず、CRMが不可能
モール仕様の制約により、自社での表現・導線改善が困難
リピート率が極めて重要な業態にもかかわらず、顧客行動が把握できない
西松屋のビジネスモデルは「継続購入が前提」であるため、顧客データを取得できない状態は戦略的に大きな損失であった。
2. 自社ECサイト開設の戦略背景と目的
西松屋は、これらの課題を解決するために、2021年11月に「西松屋公式オンラインストア」を立ち上げた。
2.1 自社EC開設の主目的
販促費構造の改善(モール依存から脱却)
顧客データ活用によるCRM強化
LTV最大化(ライフステージに応じた継続購入を支援)
実店舗とのチャネル最適化
経営陣は「長期的な成長には、自社ECを軸にしたデータ活用が不可欠」と判断した。
2.2 主要ターゲット
都市部など、店舗の届きにくい地域の子育て世帯
妊娠初期からの継続購買が期待できる層
育児で店舗に行く時間が取りづらい層
ターゲットの行動特性を踏まえ、利便性重視でサイトを設計した。
3. 店舗 × EC を連携したオムニチャネル戦略
3.1 店舗受け取りサービスによるO2O強化
自社EC立ち上げと同時に「店舗受け取り」サービスを開始。これにより次のメリットが実現した:
店舗受取なら 1点から送料無料
配送より早く商品を受け取れる
ECで注文 → 店舗来店 → ついで買い の発生
ECユーザーが実店舗にも心地よく回遊する導線を形成
これによりオンライン・オフラインの相互送客が進んだ。
3.2 在庫補完による販売機会最大化
衣料品は色やサイズの種類が多く、実店舗だけでは在庫を全て持つことは難しい。
EC導入により:
EC倉庫での補完在庫を提供
実店舗にないサイズをECで検索→購入
欠品による取り逃がしを削減
「店舗にないものはECで補完する」というオムニ補完モデルが成立した。
4. 顧客データ一元管理とCRM強化によるLTV最大化
自社ECにより顧客データが統合され、以下のCRM施策が可能になった。
4.1 アプリ・LINE・メールを活用した多層接点
アプリ会員ポイントの統合 店舗・アプリ・ECのポイントが一本化され、どのチャネルでも同一の体験が可能に。
LINEによるフォローアップ 購入後の連絡、クーポン、キャンペーンを配信し再訪問率・再購入率が向上。
月齢別・年齢別の情報配信 出産予定日や子どもの年齢をもとに、成長ステージに応じた情報と商品提案を自動で配信。
4.2 ライフステージ別パーソナライズ戦略
顧客のライフステージは大きく変化し、それぞれで購入する商品が異なる。
妊娠期:マタニティ用品
新生児:肌着・おむつ
1〜3歳:衣料品・食事用品
4〜6歳:保育園・幼稚園グッズ
7歳以降:学用品・ジュニア衣料
これらを踏まえて「必要なタイミングで最適な商品」を提案し、LTVを最大化している。
4.3 チャネル役割分担の最適化
セール品 → モール
標準ライン → 自社EC
ブランド体験・サービス → アプリ
店舗 → 試着・体験・補完購入
チャネル間の役割が明確化し、顧客の回遊がスムーズになった。
5. 自社EC導入後の成果
5.1 EC売上・利用率の増加
自社EC開設以降、売上は安定的に成長し、モールとの相乗効果で全体売上も拡大している。
5.2 LTV改善に直結した具体的指標
LINE経由の再訪問率・再購入率が大幅に向上
自社ECの継続利用率が改善
初回購入後の再購入率を可視化し、改善策を実行可能に
CRMの高度化が売上成長に直接影響している。
5.3 社内運用効率の向上
モール依存から脱却し、運用ノウハウが社内に蓄積
キャンペーン設計・クーポン配信などの意思決定が迅速化
顧客接点が増え、コミュニケーションの質が向上
6. オムニチャネル戦略の実務課題と解決
6.1 ユーザビリティへの徹底配慮
スマホ主体の利用環境を念頭に:
家事・育児の“ながら操作”でもストレスなく使えるUI
年齢別に商品を探しやすいカテゴリ設計
キャリア決済など多様な決済手段
6.2 既存顧客の移行促進
アプリ会員向けにEC開設を優先告知
EC限定キャンペーンを実施
モールより優遇されたポイント還元を設定
段階的な移行により、顧客の抵抗感を抑えながら自社ECに誘導した。
7. ライフステージに応じたロングテール最適化
EC導入により、
妊娠初期〜小学生までの 10年以上に及ぶロングテール顧客の行動が初めて可視化
ステージ別のパーソナライズ施策を展開可能
一人あたり購入金額(LTV)が継続的に上昇
顧客基盤の価値を最大限引き出す仕組みが整った。
8. 業界への示唆
西松屋の事例は、小売業のEC活用における重要な示唆を与えている。
段階的EC導入(店舗受取 → 自社EC → CRM最適化)
データ活用を中心に据えた戦略
顧客ライフステージを軸とした長期CRM設計
同社は「EC化率5%で売上250億円」を目標としており、さらなる成長が期待される。
■総括
西松屋チェーンの自社EC戦略は、実店舗中心の小売企業がデジタル化に成功するための模範例 である。
ECと店舗の補完
顧客データの統合管理
ライフステージに応じたCRM
オムニチャネル化による顧客体験向上
これらを着実に実行し、顧客価値と企業成長を同時に高めている。




























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