日本EC最新事例2025:菊廼舎
- あゆみ 佐藤
- 2 日前
- 読了時間: 6分
1. 事業背景とECリニューアルの必然性
1.1 創業130年を超える老舗ブランドとしての位置づけ
株式会社菊廼舎本店は、1890年(明治23年)に創業し、130年以上の歴史を持つ老舗和菓子ブランドである。代表銘菓「冨貴寄(ふきよせ)」は大正後期から続く看板商品で、銀座の手土産として高い支持を得てきた。
事業としては、
銀座本店・渋谷・東京駅の直営店
全国百貨店・羽田空港での販売
自社オンラインショップ
という多層チャネルを持つため、オムニチャネル戦略の強化は以前から重要な経営課題であった。
1.2 インターネット草創期の対応不足
約20年前、同社はホームページを開設したものの、通販といえば「電話注文が主」であり、本格的なECサイトとしての役割は果たせていなかった。
テレビや雑誌で菊廼舎本店が紹介される機会が増えると、アクセスが急増。これを契機に、同社はECに本腰を入れ始めた。
1.3 旧ECシステムが抱えていた根本課題
しかし、当時導入したECシステムには以下の制約があった。
■ 顧客体験面の課題
UIが古く、購入手続きが分かりづらい
PC前提の設計で、スマホ最適化が不十分
■ 運用面の課題
受注処理・在庫管理・顧客対応の多くが手作業
受注増=担当者負担の増加=対応品質の低下という負の連鎖が発生
■ 機能面の課題
和菓子特有のギフトニーズに対応できていない(複数配送先、のし設定など)
冨貴寄の「オリジナルメッセージプリント」の注文情報が現場に正しく連携されない
セール・クーポン・キャンペーンなどの販促設定が難しく、柔軟に展開できない
特に深刻だったのは、売上を伸ばすための施策を実行しようとすると、システムの制約でかえって業務が逼迫するという構造的問題である。
2. EBISUMART導入の背景と選定理由
2.1 デザイン会社からの推薦と比較検討
ECリニューアルのきっかけは、長年取引していたデザイン会社・株式会社コムラボのディレクターによるEBISUMARTの推薦だった。食品ECサイトでの導入実績があり、同プラットフォームの機能性と柔軟性を熟知していた。
菊廼舎本店がEBISUMARTを選定した理由は以下の3点。
SaaS型で常にアップデートされる最新環境
フルスクラッチ開発のように高額コスト・長期開発を要さない
技術トレンドへ迅速に対応できる
高いカスタマイズ性
カート・会員情報ページ・ギフト設定など、デザインできる領域が広い
老舗ブランドの世界観を崩さずにEC展開できる
導入コストと運用コストを最適化できる
小規模改修に大きな費用がかからない
月額課金で予算管理が容易
2.2 リニューアル目的:見た目変更ではなく「構造改革」
五代目代表取締役社長・井田裕二氏は、以下の2つを明確に掲げた。
顧客側の改善:購入しやすく、ギフトに強いECへ
企業側の改善:受注・出荷・顧客対応のオペレーション最適化
つまり、CX(顧客体験)とEX(従業員体験)の両立をめざす“構造的リニューアル”であった。
3. 新システム導入後の機能強化と運用改善
3.1 冨貴寄の「メッセージプリント」機能が本格運用
EBISUMART導入で、課題だった下記が完全に改善された。
EC上でメッセージ指定が直感的に入力可能
指定内容が受注・製造現場・出荷部門へ自動連携
手作業による伝達ミスが消滅
この機能はギフト需要に直結し、同社のビジネスモデルを強化する“収益機能”として大きく貢献した。
3.2 ギフトニーズへの本格対応
複数配送先の登録
のし設定の自動化
住所ごとの管理一元化
従来は「手作業で対応」していた複雑注文を、EC上でスムーズに処理できるようになった。
3.3 セール・キャンペーンをEC担当者自身で運用可能に
SaaS型のメリットである「管理画面での販促設定」が可能となり、
季節のキャンペーン
ポイント付与
期間限定セール
クーポン発行
が社内だけで実行可能に。これまで数百万円かかっていた改修が不要となり、販促スピードが劇的に向上した。
4. 数値で見る成果:会員1.78倍・客単価130%
4.1 会員数が10カ月で1.78倍
2018年10月のリニューアル後、会員数はわずか10カ月で1.78倍へ拡大。
旧システムでは業務負荷が追いつかず、新規会員施策が十分にできなかったが、新システムによりスケーラブルな運用が可能となり、成長加速が実現した。
4.2 EC客単価が130%に向上
リニューアル後、客単価は約130%に成長。
要因は以下の3つ:
メッセージプリントなど“高付加価値商品”の伸長
ギフト需要対応による複数購入の増加
セール/クーポンによるクロスセル・アップセルの活性化
4.3 電話注文からEC注文への自然移行
アクセス性が向上したことで、電話注文中心だった顧客がECへ移行。
メリットは大きい:
電話対応の負荷削減
顧客は24時間いつでも注文可能
注文件数が増えても業務負荷が比例して増えない
5. 社内業務効率化:注文処理時間の劇的短縮
5.1 1件の注文処理にかかる時間が大幅に短縮
受注~出荷までのプロセスが自動化され、以下が軽減。
入力作業
特殊対応(のし、メッセージプリント)の確認
出荷指示
顧客連絡
旧システムは「注文増=作業増」。新ECは「注文増でも作業増は最小化」。菊廼舎本店にとって、これは事業の成長可能性を“構造的に広げた”意味を持つ。
5.2 改修コストの削減
SaaS型の利点により、
キャンペーン
画像差し替え
新機能追加
などの改修が短期間かつ低コストで実行可能となり、市場対応スピードが向上した。
6. デジタル推進部の設立と組織DX
6.1 デジタル推進部の役割
EC事業が成長したことで、同社は「デジタル推進部」を新設した。
その意味は大きい:
ECが“副次チャネル”から“主力事業”へ格上げ
店舗とECを一体化したオムニチャネル推進体制
顧客データ統合によるCRM高度化
6.2 オムニチャネル戦略の本格化
将来的には、
実店舗とECのポイント統合
全チャネルでの顧客データ連携
在庫一元管理
顧客ニーズに合わせたパーソナライズ
など、総合的なオムニ戦略の実現が期待される。
7. 老舗企業にとっての示唆とベストプラクティス
菊廼舎本店の成功事例は以下を示す。
SaaS活用は老舗企業のデジタル化と相性が良い→ 世界観の維持と機能拡張の両立が可能
CXと業務効率化の両立は可能である→ “売上増と負荷増が比例する構造”から脱却
デジタル部門設置はDX推進の要となる→ 企業文化そのものを変革する
総括
菊廼舎本店は、EBISUMART導入を契機に、
会員数1.78倍
客単価130%
電話→ECへのチャネル転換
業務効率化
デジタル推進部設立
を短期間で実現した、老舗企業におけるDX成功モデルである。
創業130年の伝統を守りながら、デジタル技術を戦略的に活用することで、新たな成長軌道へと転換した本事例は、日本の老舗企業と中堅企業がデジタル化を進めるうえでのロールモデルと言える。
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/keiei_meigara/dxstock-report2023.pdf
https://www.smrj.go.jp/supporter/yorozu/fbrion0000004an2-att/R3_yorozu_jireisyu.pdf
https://jcmanet.or.jp/bunken/wp-content/uploads/2017/2017-10.pdf
https://www.nichiban.co.jp/corp/sustainability/report/pdf/2024_print_all.pdf
https://www.fancl.jp/ir/library/finance_report/pdf/y_2403.pdf
https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/uploaded/attachment/136064.pdf
https://reabiz.jp/wp-content/uploads/2024/06/f33da9fb038ed809e1d9f04ad418287e.pdf
https://www.ieice.org/~cs-edit/magazine/ieice/alldata/Bplus65_all.pdf
https://www.furusato-zaidan.or.jp/wp-content/uploads/2025/05/da557f1a1ca2208acb280fca306e717a.pdf
https://www.takacci.or.jp/wp-content/uploads/threechallenges2.pdf
https://portal.monodukuri-hojo.jp/common/bunsho/ippan/16th/saitaku16ji.pdf




























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