日本EC最新事例2025:山善
- あゆみ 佐藤
- 2 日前
- 読了時間: 6分
1. 株式会社山善の事業背景と「山善ビズコム」開設の必然性
1.1 従来の販売チャネルと見落としていた法人需要
山善の消費財関連商品(サーキュレーター、ホットプレート、家具、工具など)は、長らくホームセンターや大手ECモールでの販売が中心だった。しかし、販売データを詳細分析した結果、領収書発行率が想定以上に高いことが判明した。これは、
オフィスの開設・改装に伴う大量購入
工場・施設向け設備の一括調達
定期的な消耗品調達
個人事業主による事務所・作業場の整備
など、法人・事業者による需要が非常に大きいことを示していた。
1.2 従来体制では法人ニーズに応えきれなかった
既存のモール販売では、法人取引に必要な機能が不足していた。
ボリュームディスカウントが柔軟に設定できない
見積書・請求書・領収書のシステム発行が非対応
掛け払い(請求書払い)が提供できない
法人向けサービスのカスタマイズが難しい
顧客フィードバックが山善本体に蓄積されない
さらに、山善には「顧客の声を起点に商品開発を行う商社」としての文化があるが、消費財領域では法人の声が十分に拾えていなかったという構造課題もあった。
2. 「山善ビズコム」立ち上げの戦略意図
2.1 基本コンセプトと設計思想
山善は2022年5月10日、法人向け自社EC「山善ビズコム」を立ち上げた。そのコンセプトは、「法人と直接つながる自社ドメインECを構築し、ニーズの把握・市場開拓・顧客理解を深める」
というもの。
特徴的なのは、BtoC商品を排除しなかったことである。背景には、
法人も個人事業主も「一個人として商品を購入する」シーンが存在する
個人用途で山善商品を使い満足することで、法人としての購入にもつながる
全体売上ボリュームが増えるほど法人売上も比例して伸びる
という実務的な判断がある。
2.2 初期ターゲットと将来の拡張性
ターゲットは段階的に設計されている。
中小企業・個人事業主(初期フェーズ) オフィス用品、家具、工具などの即時ニーズ
個人消費者 将来的な法人需要につながる潜在顧客
大手企業(中長期ターゲット) システム・運用の成熟を前提に大規模調達に対応
山善は当初から「大手企業にも使われるEC」を目指して設計を行っている。
3. 法人向け機能の実装と価値創出
3.1 ボリュームディスカウント機能
法人取引では「まとめ買い」が頻繁に発生する。山善ビズコムはそのための機能を強化した。
まとめ買い・組み合わせ買いに対応
購入数量に応じた段階的割引
数千個単位の大口注文にも対応
この結果、企業は見積り不要で瞬時に割引後価格を把握でき、購買意思決定が高速化した。
3.2 見積書・請求書・領収書の自動発行
法人購買で不可欠なドキュメントをEC上で完結できるようにした。
見積書の自動生成
領収書の即時発行
請求書発行機能(掛け払い対応)
これにより顧客の事務負担が大幅に削減され、山善内部の処理も自動化された。
3.3 掛け売り(請求書払い)対応
法人調達では必須となる機能である。
企業の経理処理に合わせた月締め支払い
即時払い負担の軽減
定期購買の自動化にも対応
「法人が本当に使いやすいEC」にするための重要な要素となった。
4. バックエンド統合による業務効率化
4.1 既存モール販売システムとの統合
山善ビズコムの裏側では、既存のモール受注・出荷システムと完全統合が行われている。
これにより:
異なるシステム間のデータ移行が不要
在庫・発送の誤差や事故を防止
機能追加時の開発コスト・影響範囲が限定的に
山善は統合テストに相当な時間をかけ、安定稼働を重視した。
4.2 受注〜出荷〜請求までの自動化
山善ビズコムでは次のプロセスが自動化されている。
受注データ反映
在庫確保
出荷指示生成
配送手配
請求書の自動生成
従来、人手で行っていた処理が数秒で完了するようになり、社内工数が大幅に削減された。
5. AIによる売上向上と顧客体験改善
5.1 AIレコメンドが売上の約1割を創出
山善ビズコムでは、Silver Egg社のAIレコメンドを活用しており、
購入履歴
閲覧行動
類似ユーザーの購買傾向
を基に商品を自動提案する。
結果として、人的介入なしのAIレコメンドから売上の10%前後が生まれるという成果が出ている。
5.2 会員属性に応じたパーソナライズ
会員登録時に選択された属性(法人/個人事業主/個人)に応じて、
表示バナー
メール内容
クーポン種類
を出し分ける。1つのサイトでBtoB・BtoC双方を扱いながら、満足度の最適化に成功している。
6. 成果指標:会員数・売上・顧客満足度の急成長
6.1 会員数の急拡大
2022年5月:サービス開始
2024年5月:8万会員突破
2025年4月:20万会員突破
2025年度中:30万会員を目標
BtoB-ECとしては異例のスピードで成長している。
6.2 売上は3年計画を2年で達成
3年間の売上目標:10億円
2年目(2024年度):20億円規模に到達見込み
計画を前倒しで達成しており、BtoB-ECの需要拡大と山善の戦略適合性を示す。
6.3 顧客満足度の向上
法人:「見積が早い」「請求書払いが便利」「大量購入が簡単」
個人:「探しやすい」「配送が早い」「メーカー直販で安心」
幅広い層から高評価を得ている。
7. 顧客と企業の双方で実現した業務効率化
山善ビズコムの特徴は「顧客側と企業側の効率化が同時に進む」点である。
対象 | 従来 | 新体制 |
見積取得 | 他社比較 → 問い合わせ | ECで即時価格・割引表示 |
請求書処理 | 手作業のファイリング | 自動ダウンロード |
山善の受注確認 | 手作業で確認 | 自動統合 |
山善の請求書発行 | 個別手作業 | 自動生成 |
クロスセル提案 | 営業が個別対応 | AIが自動レコメンド |
8. 今後の拡張性と業界への示唆
山善ビズコムは、以下の観点で日本のBtoB-EC市場に示唆を与えている。
隠れた法人ニーズをデータで可視化すべき
モール依存から脱却し、自社データを活用して価値創造
フロントとバックエンド両面の統合が成功の鍵
AI・自動化がBtoB-ECの収益源になる
山善は「大手企業でも利用できるサイト」に進化させる方針であり、BtoB-ECのロールモデルとして注目度が高い。
■総括
「山善ビズコム」は、モール依存から自社ECへの転換により、わずか2年で会員数8万→20万、売上は計画の2倍達成という急成長を実現したBtoB-ECの成功事例である。
法人取引機能の強化
バックエンド統合による業務効率化
AIレコメンドによる売上創出
この3つが強力に作用し、山善は新たな顧客価値と市場競争力を獲得した。
https://www.yamazen.co.jp/archives/001/integrated_report_j_2025.pdf
https://www.silveregg.co.jp/archives/blog/2025-07-BtoB-EC-Use-Cases
https://www.yamazen.co.jp/archives/001/integrated_report_j_2024_1.pdf
https://www.yamazen.co.jp/business/industrial-solution/is-products/
https://www.knt.co.jp/ec/shiga-miraitoshi/dl/saitaku_ichiran02_1017.pdf




























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