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日本EC最新事例2025:ABCファンライフ

ABCファンライフ:テレビ通販 × EC統合による販売基盤強化と顧客層拡大の成功事例


1. ABCファンライフの事業背景とテレビ通販における課題認識

1.1 事業概要と市場環境

朝日放送グループの「ABCファンライフ」は、テレビ通販事業を中心としたコマース事業を展開しており、「せのぶら本舗」「らくらく満点生活(旧・らくらく茂)」などのテレビ番組内での商品紹介から受注までを一貫して担っています。

朝日放送グループ全体のショッピング事業売上は、2025年3月期に202億円超と報告されており、テレビ通販はその中核的な収益源です。


1.2 インターネット普及による購買行動の変化

かつて主流だった電話注文は、インターネット普及により「Webで購入したい」という顧客ニーズが急速に高まりました。これを受けて約10年前にECサイトを立ち上げましたが、初期の運営体制には深刻な課題がありました。


1.3 初期に抱えていた主な課題

①技術的課題:瞬間的アクセス集中に耐えられない

テレビ通販の特性として、放送中の数分間に数万人のアクセスが殺到するため、サーバー負荷に耐えられない状況が慢性化していました。

②費用負担の大きいフルスクラッチ開発

EC・電話受注を統合した独自システムを開発しており、「デザイン変更に数百万円」「小規模改修に半年」など、運用コストが非常に高い構造でした。

③運用効率の低下

フロント(EC画面)・バックエンド(在庫・受注管理)・電話受注システムが一体化していたため、スケーラビリティが低く、負荷分散が困難でした。


1.4 テレビ通販固有のビジネス構造

テレビ通販は以下の特徴をもつため、ECと異なる課題が存在します:

  • 放送直後に受注が急増(電話・EC双方)

  • 単発購入が多く、継続顧客化が難しい

  • 放送後の継続的なコミュニケーション設計が困難

そのため、**「瞬発力はあるが顧客基盤形成が難しい」**という構造的な弱点を抱えていました。



2. EBISUMARTへのシステム移行と効率化の実現

2.1 移行判断の背景と目的

上記課題を踏まえ、ABCファンライフはクラウド型ECプラットフォーム「EBISUMART」への移行を決定しました。主な狙いは以下の通りです:

  • 初期・運用費用の大幅削減

  • オートスケール対応によるピーク時アクセス耐性の確保

  • フロント/バック分離による運用効率化

  • PDCAサイクルの高速化による改善スピード向上

特に、限られた予算の中で最大効果を得ることが、意思決定の重要ポイントでした。


2.2 技術的アーキテクチャの改善ポイント

① オートスケール機能

  • テレビ放送時のアクセス急増に自動対応

  • 必要な時のみサーバーリソースを増加させ、平常時は削減→ コスト効率の最適化を実現

② フロント/バックの独立構造

  • EC画面と受注・在庫管理を分離

  • 電話受付システムとも連携し、在庫を一元管理→ 改善作業を小さな単位で柔軟に実行可能

③ 運用の簡素化

  • デザイン変更・キャンペーン設定を内製化

  • 数百万円規模だった変更が 数万円〜で実現可能



3. テレビ通販とEC連携による新たな取り組み

3.1 「ABCミッケ」:番組連動型ECサイト

「ABCミッケ」は、テレビ通販番組で紹介された商品を即時購入できるECサイトで、以下の特徴があります:

番組連動機能

  • 「現在放送中の商品」をサイト上で優先表示

  • 過去放送商品も検索可能→ テレビ視聴からEC購入までをシームレスに接続

在庫一元管理

  • 電話受注とEC受注を同一システムで管理

  • 在庫反映が自動化され、販売停止漏れの発生を抑制

UI/UX最適化

  • 放送ピーク対応に特化した高速・シンプル設計


3.2 顧客データ統合とCRM基盤の整備

EBISUMARTへの移行で以下が可能に:

  • EC購入顧客の属性・購入履歴の自動取得

  • 電話受注とEC顧客IDの統合管理

  • 顧客行動データに基づくリピート施策の実行

「放送視聴後の単発購入」から、**「継続購入を促すCRM基盤」**へと進化しました。



4. 新規顧客獲得:新ECサイト「itomani(イトマニ)」の立ち上げ

4.1 戦略的な新規プラットフォーム

2023年4月、新たなECサイト「itomani」を開設。従来のABCミッケとは異なる、新しいターゲット戦略を採用しました。


4.2 itomani のコンセプトと特徴

ターゲット層

  • 30〜40代女性(SNSネイティブ)

  • テレビ通販層とは異なる顧客基盤

コンテンツ・ビジュアル戦略

  • 高品質な商品画像、ライフスタイル提案型コンテンツ

  • SNS映えを意識した商品訴求

SNS連携

  • Instagram / TikTokでの動画・投稿型プロモーション

  • インフルエンサー活用施策


4.3 itomani の効果

  • 新規女性層の顧客獲得に成功

  • 両サイトのデータ比較により商品企画・提案力が向上

  • 「テレビ × SNS」の両輪で顧客層を広げる構造が実現



5. 成果データ

5.1 EC売上比率が17% → 27%に上昇

EBISUMARTリプレース後、EC比率が10ポイント増加。放送依存からの脱却が進んでいることを示唆します。


5.2 会員基盤の拡大

  • SNS経由の新規登録が増加

  • ABCミッケとitomaniの顧客属性が明確に分離→ ターゲット別最適化が成功


5.3 テレビ放送の効果最大化

  • 同一商品を3回放送すると、初回比 1.6倍の売上増を記録→ 既存顧客のリピート購入増加による構造変化が発生


5.4 グループ全体への寄与

  • ショッピング事業売上は202億円(2025年3月期)

  • 2026年3月期は209億円を計画→ EC効率化がグループ成長に貢献



6. 業務効率化による企業側メリット

6.1 システム運用コストの削減

  • デザイン変更:数百万円 → 数万円

  • 改善サイクル高速化による意思決定の迅速化


6.2 人的リソース最適化

  • 在庫管理、電話受付、請求処理の自動化→ 人員を「高付加価値業務」へ再配置可能



7. 今後の戦略方針

ABCミッケ(テレビ連動EC)の強化

  • 放送ピークへの対応力をさらに強化

  • 電話注文ユーザーをECへ誘導

itomani の育成

  • SNSマーケティングの本格化

  • 新規顧客層の定着

  • ライフスタイルメディア化に向けたコンテンツ拡張



8. 業界への示唆

ABCファンライフの事例は、以下の点でメディアコマースの成功モデルといえます:

  • テレビ × EC の相乗効果を最大化

  • 複数ECブランドで異なる顧客層を獲得

  • クラウド最適化による運営コスト削減

  • 放送効果を「瞬間売上」から「顧客基盤形成」へ拡張



総括

ABCファンライフはテレビ通販を基盤としながら、EC効率化・ブランド分割・SNS対応という3つの戦略で新たな顧客層を獲得し、売上拡大と基盤強化を実現しました。

本事例は、「従来メディア × デジタル」融合による段階的な顧客拡大モデルの成功例として、他のメディア企業にも大きな示唆を与えています。


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