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「決済」が競争力を決める時代へ:2026年、海外メーカーが日本で勝つための決済戦略

はじめに:決済は「処理」ではなく「体験」である

グローバル企業の多くは、決済を「購入プロセスの最後の処理ステップ」と捉えがちです。商品を選ぶ、カートに入れる、決済する——その最後の「決済する」は、単なる技術処理だと思われやすい。しかし日本市場では、この認識がすでに通用しなくなりつつあります。決済はもはや「最後の工程」ではなく、「購入体験全体の評価を左右する最重要要素」へと役割が移っています。

実際、決済承認率が数ポイント落ちるだけで、売上機会は目に見えて失われます。決済はUX(顧客体験)であり、同時にPL(損益)に直結する経営変数です。



グローバルトレンド vs 日本の現実:異なる進化の道

グローバルの決済は大きく、「スピード」「統合」「パーソナライズ」の3つで進化しています。米国では即時決済インフラの整備が進み、欧州ではSEPA Instantのような枠組みが拡大し、アジアでも各国のリアルタイム決済が日常化しています。

一方、日本は進化の方向が少し違います。クレジットカード中心でありながら、コード決済・電子マネー・銀行振込・後払い等が同時に広く併存し、消費者が場面に応じて使い分ける構造が強い。経産省の公表によれば、2023年のキャッシュレス決済比率は39.3%で、その内訳(キャッシュレス決済額の構成)はクレジットカードが83.5%と依然として圧倒的です。

さらに日本のオンライン決済は、イシュア(発行会社)・アクワイアラ(加盟店契約会社)・PSP(決済代行会社)・EC事業者が分業する多層構造になりやすく、ここに摩擦が生まれます。だからこそ日本では、「新技術で前へ」というより、「既存構造の中で摩擦を減らし、承認率と信頼性を上げる」ことが競争力になります。



決済承認率の最適化:見えない場面と戦う

決済承認率とは、決済試行回数(または試行金額)に対して、実際に承認された割合です。たとえば100回の決済試行のうち85回が承認なら、承認率は85%です。

一見「85%通っている」と聞こえますが、経営視点では「15%の販売機会を失っている」と同義です。例として、月間の決済試行額が5億円規模のECサイトで、承認率が90%→85%へ5ポイント低下すると、単純計算で月2,500万円、年3億円の売上機会が失われます(試行額が同じ前提)。この差は、広告費を積み増すより大きいことも珍しくありません。



承認率が低下する主な原因(実務で多い5類型)

  1. カード会社の不正利用対策強化高額・深夜・海外IP・短時間の連続試行など、通常と異なるパターンは自動判定で否決されやすくなります。

  2. カード会社・カードブランド・発行元ごとの判定差同じ商品・同じ金額でも、発行会社のリスクモデルや顧客属性により結果は変わります。差は「一定のレンジで発生しうる」ため、ブランド別・発行地域別に分解して見ることが重要です。

  3. EC事業者側の不正対策・運用体制の弱さ3Dセキュア運用の最適化不足、チャージバック率の悪化、顧客情報管理体制の不備などは「加盟店リスク」として見られ、承認の厳格化につながります。

  4. 高額決済・狙われやすい商材に対する警戒家電、ブランド品、貴金属、デジタルコンテンツなどは換金性が高く、不正の標的になりやすい領域です。結果として否決が増えやすくなります。

  5. 決済データの可視化不足・分析不足PSPの管理画面だけでは原因が特定できないケースが多く、ブランド別・発行地域別・時間帯別・デバイス別・認証方式別などの切り分けがないと、改善の打ち手が曖昧になります。



イシュアとの対話:見えない世界を立体化する

ここが重要です。EC事業者が受け取れる情報は、多くの場合「承認/否決」という結果のみで、なぜ否決されたのか、どのルールが働いたのかは見えにくい。2026年の決済競争を勝ち抜く企業は、この「見えない仕組み」を可視化し、改善サイクルを回せる企業です。

STEP1:承認率の正確な測定

決済手段ごと、カードブランドごと、発行地域ごと、曜日・時間帯ごとの変動まで分解して測定します。

STEP2:拒否要因の切り分け(詳細分析)

3Dセキュア由来のエラー、リスク判定、入力ミス、通信・リトライ設計などを分類し、どこでロスが出ているかを特定します。

STEP3:関係者(PSP/カード会社等)と協議し、ルールと運用を最適化

これは「クレーム」ではなく「相互利益の提案」です。不正を抑えつつ承認率が上がれば、加盟店は売上が伸び、カード会社も取扱高が増えます。

このサイクルが回ると、競合と同じ市場環境でも、承認率を数ポイント〜10ポイント以上改善・維持できるケースが現実的に出てきます(「倍」ではなく「ポイント差」で考えるのが実務的です)。



3Dセキュアの落とし穴:セキュリティと利便性のバランス

多くのEC事業者は不正対策として3Dセキュア(本人認証)を導入しています。日本でも、原則すべてのEC加盟店に対して2025年3月末までにEMV 3-Dセキュア(3Dセキュア2.0)導入が求められたと整理されています。

一方で、導入が「安全性の向上」だけで終わらない点に注意が必要です。かっこ社の解説では、3Dセキュア導入月と前月の承認率を比較した分析として、**95.7%→85.6%**へ低下した例が示されています。つまり、不正を抑えるはずの施策が、運用や設計次第で「正規顧客の決済まで落としてしまう」リスクを持つ、ということです。

鍵は「リスクベース認証(RBA)」

このトレードオフを解決する鍵が、3Dセキュア2.0(EMV 3DS)で採用されるリスクベース認証です。これは「2026年から新規導入」ではなく、すでに仕組みとして提供され、2025〜2026年にかけて標準運用として定着していくものと捉えるのが自然です。リスクが低い取引は追加認証を最小化し、リスクが高い取引だけ強い認証を求めることで、セキュリティと購入体験の両立を狙えます。



多様な決済手段への対応:日本市場の複雑さを資産に変える

海外メーカーが日本進出で驚くのが、決済手段の多さです。「クレジットカードだけで十分」という発想は、日本では機会損失に直結しやすい。消費者は決済手段を場面に応じて選びます。

  • 高齢層:銀行振込、代引き

  • 若年層:コード決済、キャリア決済

  • 女性向け商材:後払い

  • EC初心者:コンビニ払い

  • 常連顧客:クレジットカード(ポイント目的)

商品カテゴリーと顧客属性によって「選ばれる決済手段」は変わります。複数手段の整備は、単なる利便性ではなく、カゴ落ちを減らすための売上戦略です。



カゴ落ち防止:「最後の数%」が売上を決める

世界的な調査では、カゴ落ち率は平均でおおむね70%前後とされます。この“購入直前の離脱”が大きい以上、改善余地が最も大きいのも決済〜チェックアウト体験です。

海外メーカーが日本で「最後の数%」を取りに行くなら、次の4つが効きます。

  1. 決済画面の最小化ワンクリック決済、入力自動化、パスキー等で入力負荷を削減。

  2. 代替決済オプションの即時提示クレカが失敗した瞬間に、コード決済・後払い等へスムーズに誘導。

  3. エラーメッセージの具体化「決済エラー」ではなく、「別の決済手段をお試しください」まで導く。

  4. リトライ設計(ユーザー負担を増やさない)再試行の導線・通信タイムアウト時の挙動・二重課金防止を含めた設計で、離脱を抑える。



海外メーカーにとっての「信頼資産」

日本市場では、「決済が通らない」体験は想像以上に強いマイナスの印象を残します。顧客はそれを「この企業は日本市場を理解していない」というシグナルとして受け取りやすい。逆に、複数の決済手段がスムーズに機能し、本人認証もストレスなく完了する体験は、「この企業は日本市場に本気で投資している」という信頼を生みます。SNSの評判、レビュー、コミュニティの口コミにも波及し、決済は無形のブランド資産になります。



実現への現実的な道筋:段階的ロードマップ

第1段階(1月〜3月):データ可視化と現状分析

  • 承認率(手段別/ブランド別/発行地域別/時間帯別)を測定

  • 初期投資:分析ツール導入(月額数十万円規模のケースあり)

第2段階(2月〜4月):複数決済手段の導入

  • クレジットカードに加え、コード決済、後払い、銀行振込等を追加

  • 初期投資:契約・連携費(案件により変動)

第3段階(3月〜5月):運用改善と関係者協議

  • PSP/カード会社等と、拒否要因の改善を協議

  • 費用:専門家支援や運用体制整備(月額数十万円〜のケースあり)

第4段階(4月〜6月):UX最適化と本人認証戦略

  • 3Dセキュア2.0運用の最適化

  • リスクベース認証を前提に、体験を壊さない設計へ

  • カゴ落ち防止UIの継続改善

第5段階(6月以降):継続的PDCA

  • 月次で承認率・否決要因をレビュー

  • 施策の効果測定と次段階への展開



結論:決済を「経営戦略」に昇格させよう

2026年、競争の焦点は「新しい販売チャネル」だけではありません。決済体験の最適化が、売上・LTV・ブランド信頼を同時に押し上げる領域として、投資判断の中心に入ってきます。海外メーカーが日本市場で成長するためには、決済を「購入プロセスの最後の処理」ではなく、「購入体験全体を判断する戦略要素」として再定義することが不可欠です。

いま始めた企業から、2026年の差がつきます。


  1. https://ytgate.jp/news/trends/20251203-001/

  2. https://ytgate.jp/news/trends/20251114-001/

  3. https://school-startup.jp/topics/8806

  4. https://www.commercepick.com/archives/81650

  5. https://service.paycierge.com/column/a2a-payment-077/

  6. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000040.000162852.html

  7. https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2022FY/060233.pdf

  8. https://ytgate.jp/news/trends/20260104-001/

  9. https://service.paycierge.com/column/issuer-acquirer-compare-064/

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  11. https://www.omise.co/jp/blogs/payment-trends-2026

  12. https://paymentnavi.com/paymentnews/150035.html

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  19. https://x.com/YTGATE_inc

  20. https://www.nri-secure.co.jp/blog/mrc-vegas-2024-2

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