「リメディアテール帝国」が日本で開花する理由:海外メーカーのための2026年戦略
- あゆみ 佐藤
- 1月15日
- 読了時間: 6分
はじめに:グローバル企業が見落とした、日本独自の進化
2025年、世界的にリテールメディアは大きな転換期を迎えました。AmazonのAmazon Marketing Cloud、ウォルマートのWalmart Luminate(現:Scintilla)、クローガーの84.51°など、グローバル大手の動きに注目が集まっています。
しかし、多くの海外メーカーは、日本市場で進行している異なる進化の方向性に気づいていません。その理由は単純です。グローバルのデータ戦略は「複数企業・複数プラットフォーム間の分業と連携」を前提としており、単一企業による高度な統合モデルが成立している日本市場を想定していないからです。
実は、日本のリテールメディアは、世界標準とは異なる軌跡を描いています。そこには、海外メーカーが日本市場で急成長するための、見落とされがちな戦略機会が存在します。
リテールメディアとは何か:広告から経営基盤へ
リテールメディアネットワーク(RMN)は、かつて「小売業者が広告枠を販売する仕組み」として理解されていました。商品ページ広告、店内デジタルサイネージ、検索連動広告など、役割はあくまでマーケティング施策の一部でした。
しかし2025年以降、その定義は大きく変わっています。現在のリテールメディアは、**購買データ・顧客属性・価格・在庫・収益性を統合する“顧客設計の中枢機能”**へと進化しました。広告はもはや目的ではなく、経営戦略を実装するための手段になりつつあります。
グローバル標準と日本モデルの決定的な違い
Amazon Marketing Cloudは、Amazon内の購買データに加え、広告主が保有するCRMやPOSなどの外部ファーストパーティデータも統合できる高度な分析基盤です。ウォルマートのScintillaも、店舗とWalmart.comのオムニチャネルデータを統合し、精緻な分析を提供しています。クローガーの84.51°も、自社系列における購買データを深く掘り下げています。
これらは非常に強力ですが、共通する制約があります。分析対象は基本的に自社プラットフォーム内の行動に限定されるという点です。
消費者はAmazonでも買い、ウォルマートでも買い、実店舗でも買います。しかしグローバルでは、この行動を完全に統合することは構造的に難しい。「データのサイロ化」は、グローバル企業にとって避けがたい前提条件でした。
日本リテールメディア革新:「楽天モデル」という別解
日本の楽天グループは、根本的に異なる道を選びました。楽天は「メディア × データ × AI」を単一グループ内で統合することで、グローバル企業には実現しにくい統合度を築いています。
楽天グループは、EC(楽天市場)、決済(楽天カード・楽天ペイ)、旅行(楽天トラベル)、通信(楽天モバイル)など、70以上のサービスを展開しています。これらのサービスで発生する行動は、1億を超える楽天IDを軸に一元管理されています。
主なデータ基盤は以下の通りです。
EC購買データ:楽天市場における詳細な購入履歴
決済データ:楽天ペイ利用データ(2025年時点で利用者数 約4,700万人)
実店舗購入データ:Rakuten Pashaに投稿されるレシートデータ(月間1,000万枚以上)
顧客属性データ:年齢・家族構成・ライフイベント等を含むID属性情報
これらが単一IDで統合されている点が、最大の特徴です。
広告主がある顧客に広告を配信した場合、その後に「ECで購入したか」「実店舗で購入したか」「いつ・何を・どれくらいの頻度で購入したか」といった行動を、連続的に把握できます。
この統合度は、グローバルのリテールメディアでは極めて稀です。
未来購買予測:新しい競争優位の源泉
楽天が注力しているのが、統合データを活用した未来購買予測です。
従来の広告は、「過去に購入した人」「直近で興味を示した人」へのアプローチが中心でした。これは、すでに意思決定が固まった層への最適化に過ぎません。
楽天の分析は異なります。CDNA(顧客DNA)分析により、「購入前に現れる行動パターン」を捉えます。
例えば、マタニティ用品を購入した顧客が、約8年後に通信教育を申し込む傾向が高いというパターンは、複数の業界メディアでも紹介されています。これは単なる統計的相関ではなく、ライフステージの推移モデルを捉えたものです。
この予測により、ブランドは「今はまだ買わないが、将来高い確率で顧客になる層」に先行してアプローチできます。
ダイナミックマーチャンダイジングへの進化
この進化は、広告領域に留まりません。マーチャンダイジング(商品配置・品揃え)そのものが、予測型へと変わりつつあります。
グローバルでは、CTV、店内デジタルサイネージ、スマートシェルフ、コネクテッドカートなど、メディア接点が拡張しています。日本でも、これらが予測データと連動して動く世界が現実になり始めています。
天候、在庫、購買傾向を統合し、「来週は雨が多い → 関連商品を前面に」「この顧客は定期的に牛乳を購入 → そろそろ補充時期」といった判断が、オンライン・オフラインを横断して行われる。
2026年は、アダプティブ(適応型)マーチャンダイジングが本格化する年になります。
海外メーカーが日本で急成長できる3つの理由
1. 巨額のインフラ投資が不要
日本では、楽天やYahoo!といったプラットフォーマーが、すでに高度な分析・予測・広告基盤を整備しています。海外メーカーは、これを活用するだけで世界トップクラスのデータ環境にアクセスできます。
2. LTV最大化に最適化された構造
グローバルではCPA最小化が主流でしたが、2026年以降はLTV最大化が主戦場になります。楽天モデルは、複数サービスを横断して顧客の長期行動を追跡できるため、この考え方と極めて相性が良い。
3. オンライン×オフライン統合データ
オンラインと実店舗の購買行動を、ここまで高精度で結びつけている企業は世界的にも希少です。海外メーカーから見れば、日本市場は高度に完成された実験環境とも言えます。
Yahoo!の挑戦と競争の激化
楽天に対抗し、Yahoo!(LINEヤフー)もPayPay、Yahoo!ショッピング、広告事業を軸にリテールメディアを強化しています。2026年に向け、日本では楽天とYahoo!を中心とした高度な競争環境が形成されつつあります。
海外メーカーでも参入可能な実装ステップ
第1段階:プラットフォーム広告の活用
第2段階:自社CRM・POSデータとの連携
第3段階:予測データを活用した商品・在庫・販促の最適化
大規模投資をせずとも、段階的に高度化が可能です。
結論:日本は「リテールメディア先進国」になる
日本がここまで進化できた理由は、生活者との接点の多さ × データドリブン経営への関心が、同一企業内で融合したからです。
海外メーカーにとって、日本市場は単なる売上獲得の場ではありません。次世代リテール戦略を実装・検証する最先端の実験場です。
2026年、リテールメディア帝国の中心は、シリコンバレーではなく、東京にあるかもしれません。その機会を掴む準備は、今から始まっています。
https://www.h-products.co.jp/topics/entry/t/trend/2025/02/27/093000
https://145magazine.jp/retail/2025/09/cross-border-ec-practical-knowledge/
https://adsales.rakuten.co.jp/news/detail/2026_specifications_1_3.html
https://www.centricsoftware.com/ja/blogs/what-is-merchandising/
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/industry/sangyou/pdf/1073_all.pdf




























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