第4章 ECは売上ではなく来店導線をつくる

JASEC 日本イーコマース学会

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第4章 ECは売上ではなく来店導線をつくる

第4章 ECは売上ではなく来店導線をつくる

  • 4月14日
  • 読了時間: 7分

 ECは、小売業における新しい販売チャネルとして語られることが多かった。しかし、OMO(Online Merges with Offline)の観点から見ると、ECの役割は、単に売上を増やすことにとどまらない。とくにホームセンターやドラッグストアのような生活密着型小売では、ECは店舗と競合する存在ではなく、店舗来店を後押しする導線として機能することが重要になる。顧客はオンラインで商品を調べ、在庫や価格、受取方法を確認したうえで店舗へ向かう。この流れの中で、ECは「買う場所」である以前に、「来店を決める場所」になりつつある。

 本章では、マツモトキヨシ、ツルハホールディングス、カインズ、DCMホールディングスの取り組みをもとに、ECがどのように店舗来店を支える導線として機能しているのかを整理する。



ドラッグストアのEC:来店前の確認を支える接点

 ドラッグストアにおけるECやアプリの重要な役割は、来店前の不安を減らすことにある。マツモトキヨシ・ココカラファイングループでは、公式アプリや会員サイトを通じて、クーポン配信や会員機能の提供に加え、店頭在庫や販売価格を確認できる仕組みを整えてきた。実際、ココカラファイン時代の公式発表でも、ウェブ上で店頭在庫と価格を確認できる機能や、アプリとのID統合による利便性向上が打ち出されている。つまり、ドラッグストアのデジタル施策は、EC単体で完結する売上拡大よりも、「その店舗に行く理由」をつくる方向に進化してきたといえる。

 この構造は、ドラッグストアという業態の特性とも整合する。日用品、衛生用品、化粧品、医薬品といった商品は、思い立ったときにすぐ必要になることが多い。そのため、顧客にとって重要なのは「どこで買うか」よりも「近くの店舗にあるかどうか」をすばやく確認できることである。ECやアプリが在庫確認、価格確認、クーポン取得の入り口になることで、店舗来店の心理的ハードルは下がる。ここで重要なのは、ECが売上の受け皿である以上に、来店意思を固める装置として機能している点である。

 ツルハホールディングスでも、同様の方向性が見られる。ツルハドラッグの公式アプリでは、クーポン配信、ポイント管理、決済機能などが用意されており、グループサイトでもアプリを日常的な来店接点として位置付けている。また、グループの沿革資料では、アプリがポイントカードとの連携や限定クーポン配信などの機能を備えた顧客接点として展開されてきたことが確認できる。ドラッグストアのEC・アプリは、オンラインで完結する購買チャネルというより、来店前の準備を整える役割を担っている。



ホームセンターのEC:在庫検索と店舗受取を軸にした導線

 一方、ホームセンターでは、ECの役割はさらに明確である。顧客はオンラインで商品情報を調べ、在庫を確認し、必要に応じて店舗受取を選び、最終的に店舗で実物確認や相談を行う。つまり、ECは売上チャネルであると同時に、店舗来店を前提とした行動導線の起点になっている。

 カインズは、その典型例である。公式リリースでは、アプリを通じて注文後に店舗で受け取れる機能、マイストア登録による在庫確認、さらに売り場案内まで提供していることが示されている。加えて、同社はデジタル施策として、商品の取り置きから受け取りまでをスマートフォンで完結できる「CAINZ PickUp」や、在庫・売り場確認機能の開発を進めてきたと説明している。ここでのECは、店舗の代替ではなく、店舗利用を効率化するための仕組みである。顧客はオンラインで必要な情報を得ることで、店舗では「探す」時間を減らし、「確認する」「受け取る」「相談する」ことに集中できる。

 ホームセンターの商品は、ドラッグストアの商品以上に、実物確認や比較検討の必要性が高い。DIY用品、工具、建材、防災用品、収納用品などは、サイズ、仕様、用途の確認が重要であり、オンラインだけで判断が完結しにくい。だからこそ、ECの価値は「オンラインで売り切ること」よりも、「来店前に必要な確認を済ませてもらうこと」にある。カインズのように在庫確認や店舗受取、売り場案内を一体化すると、ECは売上チャネルというより来店導線としての意味を強く持つようになる。

 DCMホールディングスもまた、この流れを明確に示している。同社の統合報告書や中期経営計画では、ECサイト「DCMオンライン」で購入した商品を店舗で受け取る独自のBOPISスタイルを構築していること、そして2023年度のEC売上高が前期比33.6%増となり、EC購入商品の店舗受取比率も上昇したことが示されている。さらに、2025年の統合報告書では、BOPISを通じて顧客が店舗に足を運び、実際に商品を確認したうえで受け取る流れを重視していることが読み取れる。ECの伸長そのものも重要だが、DCMの資料から見えるのは、EC成長が店舗来店の増加や店舗接点の強化と結び付けて捉えられている点である。



ECと店舗の連携が意味を持つ理由

 ECが店舗来店を誘導する導線として機能するのは、顧客がオンラインとオフラインを切り分けて考えていないからである。顧客にとって重要なのは、「ECで買ったか」「店舗で買ったか」ではなく、「必要な商品に最短でたどり着けたか」である。その意味で、在庫確認、価格確認、取り置き、店舗受取、売り場案内といった機能は、すべて来店の不確実性を減らすための仕組みだといえる。

 ドラッグストアでは、日常的に必要な商品を確実に入手するために、来店前の確認機能が重要になる。ホームセンターでは、専門性の高い商品を無駄なく確実に購入するために、在庫確認や店舗受取が重要になる。業態によって設計は異なるものの、共通しているのは、ECが「売上の受け皿」である以前に、「来店を成立させる準備装置」になっていることである。



ECは売上ではなく、来店導線としてこそ意味を持つ

 もちろん、ECそのものが売上を生むことは否定できない。しかし、ホームセンターとドラッグストアのような生活密着型小売では、ECの価値を売上だけで測ると、その役割を見誤る。実際には、ECは店舗来店の意思決定を支え、店舗利用を効率化し、来店後の購買や相談につなげる役割を果たしている。売上をどこで計上するかではなく、顧客がどのような経路で購買に至るかを見ることが、OMOの設計では重要になる。

 ドラッグストアでは、アプリやウェブ上での在庫確認、価格確認、クーポン取得が来店の後押しとなる。ホームセンターでは、在庫確認や店舗受取、売り場案内が来店の決め手になる。どちらの業態でも、ECは「オンラインで完結させるための装置」ではなく、「店舗に向かわせるための装置」として再定義されつつある。



まとめ

 ECは、もはや単独の販売チャネルとしてだけ理解するべきものではない。ホームセンターとドラッグストアにおいては、ECは在庫確認、価格確認、取り置き、店舗受取、クーポン取得といった機能を通じて、店舗来店を支える導線として機能している。つまり、ECの本当の価値は、オンライン売上の大きさだけではなく、どれだけ自然に店舗利用へとつなげられるかにある。

 マツモトキヨシやツルハホールディングスでは、ECやアプリが来店前の確認を支える接点として機能している。カインズやDCMホールディングスでは、ECが店舗受取や売り場確認を通じて、来店行動そのものを組み立てる役割を担っている。OMOを考えるうえでは、ECを売上チャネルとしてだけでなく、来店導線として再評価する視点が欠かせない。

 これから続く章では、ホームセンターとドラッグストアのOMO戦略をさらに具体的に検討していく。第5章では、ホームセンターにおけるOMOの実装ポイントを、実名企業の取り組みをもとに整理する。



参考文献


■ ドラッグストア:EC・アプリ・在庫確認

マツキヨココカラ&カンパニーココカラファイン(旧)公式リリース(在庫・価格確認機能)https://www.matsukiyococokara.com/news/archive/cocokara/pdf/20161018_PR01.pdf

※店頭在庫・価格のオンライン確認、ID統合による来店前行動の支援

※アプリ・顧客接点・OMO的なデジタル戦略

ツルハホールディングス公式アプリ紹介https://www.tsuruha.co.jp/service/app/

※クーポン、ポイント、決済など来店前接点としてのアプリ機能

※デジタル施策・顧客接点戦略

■ ホームセンター:EC・在庫検索・店舗受取

※アプリで店舗在庫を確認可能、取り寄せ・来店前確認の仕組み

公式リリース(アプリ・店舗連携)https://www.cainz.co.jp/news/4150/

※在庫確認・店舗受取・売場案内などOMO導線設計

※EC成長、BOPIS(店舗受取)、店舗とECの融合戦略

IR情報https://www.dcm-hldgs.co.jp/ir/

※中期経営計画・EC戦略

■ ECと店舗連携(OMO・BOPIS)

※ECと店舗をつなぐ代表的モデル(Buy Online Pick-up In Store)

■ 業界動向(ホームセンターのデジタル化)

※アプリ活用・在庫管理・オムニチャネル化の進展

■ 補足(OMO背景)

※小売DX・ECと店舗の融合の政策背景

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